インプラントの歯周病、インプラント周囲炎とは?症状・治療法を解説
インプラント治療を受けたら、歯周病になることはもうないと思っていないでしょうか?しかし残念ながらそのようなことはありません。インプラント治療後も歯周病になることがあります。むしろ天然歯の歯周病よりやっかいだとすら言えるほどです。
この記事では、インプラントと歯周病について解説します。この記事を読むことで理解できるのは以下の点です。
インプラントの歯周病
- インプラントの歯周病は「インプラント周囲炎」と呼ばれ、天然歯の歯周病より悪化リスクが高い
- インプラント周囲炎は気付きにくく進行のスピードが速い
- 主な原因としては、オーラルケアの不足と血流悪化などによる免疫力低下が挙げられる
- 治療は可能だが保険対象外で自費治療となり、悪化すると数十万円かかることもある
- 治療よりも予防をしっかり行うことが大切
インプラントの治療を検討中の方、あるいは治療を済ませて今後のリスクやケアの方法について知りたいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
インプラントの歯周病、インプラント周囲炎とは
「インプラント周囲炎」は、歯茎や骨などインプラントの周囲が炎症を起こすことです。天然歯の歯周病と同じく歯周病菌が原因となる炎症なので、インプラントの歯周病と呼ばれています。
炎症により徐々に歯肉や歯を支える骨が溶けてしまうなど、両者には共通する部分も多くあります。しかしインプラント歯周炎特有の点もあり、注意しておかなくてはならないこともあります。次に、天然歯の歯周病とインプラント歯周炎の違いについて見てみましょう。
歯周病とインプラント周囲炎の違い
インプラント周囲炎は歯周病よりも病状の進行が早いことが歯周病との最大の違いです。これは、天然歯は歯と歯茎の間に膜があるおかげで両者がしっかり密着しているのに対し、インプラントはその膜がないからです。
また歯周病と同じように、インプラント歯周炎も初期は痛みに気づきにくいという特徴があります。インプラント歯周炎は進行が早いのに気付きにくいため、天然歯の歯周病よりもすぐに悪化してしまうリスクがあるのです。インプラント周囲炎の方が強い注意が必要だと言えます。
インプラント治療は歯周病のリスクが高い
実はインプラント治療は歯周病(インプラント周囲炎)になるリスクが高いという一面があります。先ほど述べたように天然歯は歯茎と歯根の間にすき間がなくぴったり結合していますが、インプラントはそうではありません。そのせいで細菌が入りやすく、天然歯より歯周病、すなわちインプラント周囲炎にかかるリスクも高いのです。
2017年の日本歯周病学会の調査では、インプラントの治療を受けた人の9.7%がインプラント周囲炎を発症しているとされています。インプラント単位で7.7%、患者単位で14.3%という調査もあります。前段階の炎症も含めれば治療を受けた人の40%が罹患したことがあるという報道も以前ありました。ヨーロッパでも半数を超えるという調査があります。
数字は調査によってまちまちですが、少なくとも10%前後の確率でインプラント周囲炎になる可能性があることになります。さらにもっと高く、半数近い確率になる可能性もあるわけです。リスクの高さを示していると言えるでしょう。
インプラント周囲炎の進行と症状
次にインプラント周囲炎がどのように進行していくか、症状を中心に解説します。インプラント周囲炎は大きく2つの段階に分かれます。
- インプラント周囲粘膜炎
- インプラント周囲炎
それぞれの段階について見ていきましょう。
インプラント周囲粘膜炎
「インプラント周囲粘膜炎」は、インプラント周囲炎の初期の段階です。インプラント周囲の粘膜だけで炎症が起こっている状態のことを指します。主な症状としては次のことが挙げられます。
- 歯茎が腫れたり赤くなったりする
- 歯を磨いたときなどに出血しやすくなる
ただしすでに述べたように、痛みを伴わないため自覚がないことがほとんどです。
インプラント周囲炎
インプラント周囲粘膜炎が進行すると「インプラント周囲炎」になり、さらに中期と末期に分かれます。インプラント周囲炎は炎症が粘膜から歯槽骨に広がった状態です。症状には次の例があります。
- 歯茎が腫れる、出血する
- 膿が出る
- 歯槽骨(「しそうこつ」歯の根を支えている骨)が溶ける
- インプラントに違和感を感じたり、インプラントが不安定になったりする
- 進行が進むとインプラントが脱落する
脱落まで進むと末期です。そのほかの例は中期に当たります。
インプラント周囲炎の原因
次に、インプラント周囲炎を引き起こす原因についてまとめます。以下の原因があります。
- オーラルケア不足
- 喫煙
- 糖尿病
- 貧血
- 歯ぎしり・食いしばり
1つずつ見ていきましょう。
オーラルケア不足
オーラルケアが不足して口内が不衛生になると、インプラント周囲炎を発症する可能性が高まります。
インプラント周囲炎は、天然歯の歯周病と同じく歯周病菌が引き起こす炎症です。ブラッシングが足りない場合など、インプラント周囲に歯垢(プラーク)が溜まりそれが原因になります。
歯垢はねばねばした細菌のかたまりです。歯垢は時間が経つと石灰化して歯石に変わります。歯石は硬いため歯垢よりも取り除くのが難しくなるばかりか、表面がでこぼこしているためさらに細菌が溜まりやすくなります。歯垢はインプラント周囲炎のリスクを高める要因です。
喫煙
喫煙もインプラント周囲炎のリスクを高めます。
喫煙は血管を収縮させるため、結果として血流が悪化します。血流が悪化すると栄養や酸素が全身に行き渡らなくなり、免疫力が低下します。そのため、喫煙が歯周病やインプラント周囲炎のリスクを高める可能性があるのです。
喫煙者はインプラント治療を断られたり、禁煙を勧められることもよくあります。
糖尿病
糖尿病もインプラント周囲炎にかかる可能性を高める要因です。糖尿病になると、免疫力が低下します。その結果、歯周病菌に対する抵抗力も落ちてしまうからです。また新陳代謝にも悪影響があるため、骨の結合や傷口の治癒に問題が生じる場合もあります。
そもそも、糖尿病だとクリニックによってはインプラント治療自体を受け付けてくれません。
貧血
貧血も免疫力低下の原因となるため、インプラント周囲炎にかかりやすくなります。貧血で血流が悪いと、細菌から体を守る白血球や栄養・酸素が体内に行き渡りません。その結果免疫力が低下し、歯周病菌への抵抗力が落ちてしまいます。結果として感染リスクが高まることになります。
歯ぎしり・食いしばり
やや意外かもしれませんが、歯ぎしりや食いしばりもインプラント周囲炎の原因になります。
歯ぎしりで歯にかかる圧力は、食事のときにかかる圧力よりもかなり大きいものです。食事でかかる圧力は自分の体重ぐらいと言われます。体重50kgの人なら大体50kgぐらいの圧力が歯にかかるということです。
しかし歯ぎしりでは、数百キロから人によっては1トンに達する場合もあります。インプラントに負荷がかかると、歯茎にも圧力がかかり炎症が起こります。その結果インプラント歯周炎になってしまうのです。
インプラント周囲炎になったら治る?治らない?
インプラント周囲炎になったら治るかどうか疑問に感じる人も多いでしょう。結論を言うと完治するのは難しいと言えます。少なくとも放置しておいてよくなることはありません。しかし適切に治療すれば、症状を大きく抑えることはできます。ここでは、インプラント周囲炎になったときについて、以下の側面から解説します。
- 治療法
- 治療の費用と保険適用の可否
- 治療の期間
順に解説します。
治療法
治療法は、軽度の場合と中期〜末期の場合とで異なります。
軽度で発見できた場合は、「非外科的治療」を行います。具体的には、PMTC(歯石の除去)、歯周ポケット内洗浄、オーラルケアの指導などです。
病状の進行が進むと、歯茎を切り開いて「外科的治療」を行います。炎症部分の切除のほか、歯周組織の再生などが外科的治療に当たります。
治療の費用と保険適用の可否
治療の費用に関しても、治療方法と同様に病状の進行具合で金額は異なります。
初期状態であれば、治療も比較的数千円で済みます。クリーニングや投薬で対応可能だからです。しかし中期だと数万円から10万円前後、進行が進むと数十万円になることもあります。これは治療方法が大掛かりになったり投薬が必要になったりするからです。
保険については、インプラント治療と同様に保険適用はできず自費治療となります。ただし医療控除は可能です。そのため、確定申告で医療費控除を申請すれば一部が還付金として戻ってきます。申請した場合レシートなどは保存しておかなければならないので、処分しないようにしましょう。
治療の期間と時間
治療の期間についても、進行度によって幅があります。大まかに言えば、インプラント周囲粘膜炎でもインプラント周囲炎でも3か月程度が一つの目安となります。
なお1回の治療時間は、外科的治療で手術となった場合、1本につき1~3時間が目安です。
インプラント周囲炎の予防・セルフケア
インプラント周囲炎を予防する方法やセルフケアについて解説します。以下の方法についてまとめます。
- 口内清掃
- クリニックでのメンテナンス
- 禁煙
- 食生活などの改善
歯周病やインプラント周囲炎は基本的に完治することがありません。そのため対処の治療よりも予防をしっかり行って歯周病にならないよう注意することが大切です。
では、上記の具体的な方法について順に見ていきましょう。
口内清掃
まず基本となるのが口内清掃、オーラルケアです。口内清掃を行うことで、インプラント周囲炎の原因となる歯周病菌を除去することができます。
具体的には、歯周ポケット(歯と歯茎の間にできた溝)の汚れを掻き出すことがポイントになります。力を入れる必要はありません。ブラシのほか、デンタルフロスや歯間ブラシを使うのもおすすめです。
クリニックでのメンテナンス
また、定期的にクリニックに通院してメンテナンスを受けることも大切です。これは事前に説明を受けていることでしょう。
メンテナンスでは、プラークのチェック、噛み合わせのチェックと調整などを行います。仮にインプラント周囲炎の兆しがあったとしても、こうしたチェックの過程で兆候に気付いてもらえます。インプラント治療後の口内を健康に保つために必ずメンテナンスは受けましょう。
禁煙
喫煙も周囲炎予防にたいへん役立ちます。
喫煙は、すでに述べたようにインプラント周囲炎の原因になります。喫煙は血行を悪化させるので、禁煙することによって血行が改善されます。その結果、必要な栄養や酸素、細菌から体を守る白血球などが全身に広がり、免疫力を高めることが可能です。さらに新陳代謝もよくなるので、インプラントと骨の結合もより強固になることが期待できます。
食生活などの改善
食生活などの改善も重要です。糖尿病や貧血は、周囲炎の原因となります。いずれも血流の悪化とそれに伴う免疫力低下をもたらすので、その原因をなくすようアプローチすることで周囲炎の予防につながります。
栄養バランスのよい食事、水分補給、ストレッチや適度な運動、睡眠などが具体的な方法です。常識的に考えて体によさそうなことばかりです。これらの具体的な方法を習慣化することがインプラント周囲炎の予防につながります。
歯周病だとインプラント治療はできない?
歯周病だとインプラント治療ができないのか疑問に思う人も多くいるのですが、結論を言うと歯周病の間はインプラント治療ができません。ただししっかり治療したあとには可能になるケースもあります。
インプラントを埋め込むときは歯茎を切開します。歯周病にかかっていると、そのとき歯周病菌が傷口に入ってしまいインプラント周囲炎が起こりやすくなるのです。そのリスクをなくすために、歯周病の間はインプラント治療を行うことはできません。
症状が改善すれば治療を受けることが可能になります。しかし、残念ながら歯周病は完治するということがありません。そのため、一般に歯周ポケットの深さを目安に治療の可不可を判断します。
高田歯科で適切なインプラント治療と歯周病の予防を
インプラント治療はメリットが多い反面、インプラント周囲炎のようなリスクもあります。そのリスクが現実のものとならないよう、適切な治療を受け治療後も適切なケアを続ける必要があります。しかしいずれもクリニックのサポートがあってこそ実現するものです。
もしも東京でインプラント治療を検討中の方がいらっしゃったら、杉並区荻窪の高田歯科クリニックにご相談ください。インプラントの専門家としてさまざまな実例に接しており、多くの知見があります。その知見を活かし、インプラント周囲炎にならないための治療やメンテナンスを行っています。
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カテゴリー:インプラント&歯科ブログ 投稿日:2024年4月3日